はじめに
本来なら絆トーチを掲げて村内を駆け回っているはずだった令和2年5月10日、コロナ禍で自分たちのイベントの延期を余儀なくされたやまぞえ絆リレー2020実行委員会は、計画の成就とウィルス撲滅を祈念し、大絵馬を中峰山の神波多神社に奉納しました。
大阪で活躍するモダンアートの旗手・中島麦さんの【2020年5月】と題する一対の大絵馬です。
絆リレーが、どうして大絵馬を?
大絵馬って何?
大絵馬奉納に至る経緯を説明していきますので、私達の気持ちも分かってもらえたら嬉しいです。
防疫の神様「神波多神社」
神波多神社の氏子は、波多野地区をはじめとして十三大字に及び、山添村に限らず、三重県伊賀地方や京都府南部の崇敬の的だった神社です。すでに平安時代の条例集である「延喜式」にもその名が認められる村内で最も由緒ある神社です。
奈良・平安時代、都での疫病の流行を防ぐことを目的に、畿内十界に疫神が祀られました。
神波多神社はその一つで、大和と伊賀の堺(境)に建てられたものとされています。
このような神波多神社ですから、絆リレーにおいても当然のことながらトーチを掲げて訪れることになっていました。
なぜ大絵馬を奉納するのか
古来から人々は、大事な願いことがあるとき(たとえば、雨乞いや防疫)、神様の乗り物とされる貴重な馬を、神社に奉納する習わしでした。しかし、生馬は飼育が大変で費用がかさむので、時代を経るに従い、馬形や絵馬が代用されるようになりました。
コロナ禍のためにイベントを延期せざるを得なかった私達は、
・コロナ禍の早期終息
・村民の健康・安全
・村内の神社に参拝する約束を果たせなかったお詫び
・来年必ずこの計画を実行するという決意
これらを祈願するために、除疫神・牛頭天王を祀る神波多神社に、予定日だった5月10日大絵馬を奉納したのです。
この大絵馬奉納の計画は、ある若者の提案から始まりました。
絆リレーの延期を決定した時、神波多神社の歴史や絵馬の研究をしている北畑良太さんという奈良大学の学生から、「防疫神を祀る神波多神社にコロナ撲滅祈願の絵馬を奉納しては」と提案があったのです。
彼は、絆トーチを持って村内を走るランナーにも応募して下さっていました。
興味深い提案だったので、何度かメールでやり取りをして、北畑さんの真摯な人柄に惹かれて、すっかり彼の提案を実現したくなりました。副委員長の大谷敏治さんも、賛成してくれたのです。
実は、北畑さんとは後述する7月11日まで、一度も会ったこともありませんでした。
しかし、メールのやり取りから受ける彼のアイデアや言葉、送られてくる情報の精度などから、彼の提案を受け入れただけでなく、その解説パンフレットの原稿も彼に任せました(後述)。
なぜ、モダンアートの抽象画なのか? 令和の大絵馬!
従来、神社に奉納されている絵馬は、ほとんどが具象画です。武芸上達祈願や除疫祈願においては、勇ましい武士の姿、神話に題材をとったもの、馬をはじめとする動物の姿などが描かれていることが多いです。
しかし、今回私達は、コロナ撲滅祈願には抽象画こそ相応しいと考えました。
まだ全容が見えない未曾有の感染症に対峙する人類に、今後どれくらいの試練が待ち受けているのか、克服にどれほどエネルギーを必要とするのか分からないのだから、具象画より抽象画の方が適切という考えです。
コロナウィルスは目には見えない相手なのです。
そこで、関西で活躍するモダンアートの第一人者である中島麦氏に絵馬作成を依頼しました。
5月10日(本来の絆リレー開催予定日)が締め切りという時間制限があるにもかかわらず、彼は引き受けてくださいました。
4月下旬に三密を避けながら山添村を訪問してくださり、私達と一緒に神波多神社にお参りされました。
現地に足を運び何らかのインスピレーションを得ることが絵画制作には重要だったと思います。
ゴールデンウィーク中に高さ80㎝、幅100㎝の絵一対を完成してくださり、【2020年5月】というタイトルを付けて下さいました。
令和時代の大絵馬完成に、ぐっと近づいたのです!
絵馬に仕上げるために皆で協力
中島さんが絵を描いて下さったら、ここからは実行委員がみんなで絵馬を完成させる番です。
福田秀行さんから木枠に用いるヒノキの提供を受け、
大工の田中春朗さんが木枠を作成、
さらに、赤埴淑子さんが、木枠に「コロナ克服祈願」と墨書して奉納数日前に、無事に完成しました。
木枠は幅が10㎝なので、絵馬の高さは100㎝、幅は120㎝の大きさになりました。
やまぞえ絆リレー2020の実行委員メンバーの協力に、この場を借りて御礼申し上げます。
令和2年5月10日 絵馬奉納
ついに絵馬を奉納する日が来ました。
令和2年5月10日は神波多神社の春の例祭が執り行われる日でもあったので、神社にお願いして、太田和秀宮司さんにお祓いしてもらうことができました。
本来、絆トーチを掲げて登ってくるはずだった5月10日、神波多神社の境内に太田宮司の厳かな声が響きました(下図)。
こうして晴れて令和の大絵馬一対は、めでたく奉納されたわけです。
コロナに対する緊急事態宣言下にあり、世間は最も沈滞している時期でしたが、山添村々長も例祭に参加され、実行委員会は晴れやかに奉納することができました。
令和2年5月31日 参籠所に大絵馬を掲げる
5月31日、実行委員の有志数名が共同して、神波多神社の参籠所の東端の軒下に、奉納した大絵馬二枚を掲げました。
このようにして、神波多神社には、おそらく約60年ぶりに大絵馬一対が掲げられました。
無事に掲げて、皆で談笑中。
この日以降、徐々にではありますが、神波多神社に大絵馬見学に訪れる人も増えていると聞いています。
実行委員会としては、、イベントへの再認識とともに、神波多神社の知名度向上にも寄与出来たら望外の喜びであります。
令和2年7月11日 祇園祭に合わせて大絵馬のパンフレット寄進
7月11日午前中に神波多神社の夏の例祭・祇園祭が執り行われました。
氏子総代の方々が参加されるのに合わせて、大絵馬の解説パンフレットを用意して皆様に披露させていただきました。
抽象画である令和の絵馬を見て「何が描いてある?」と思う人が多いから、中島麦さんご自身の言葉で解説を書いてもらうことにしました。
そして、パンフレットを開くと、神波多神社の歴史や江戸・明治時代の絵馬についての解説も読んでもらえるようにしました。もちろんこれは、北畑良太さんの手によるものです(前述)。
氏子総代の皆様にもパンフレットは好評のようでした。
午後から、絆リレー委員会としては、5月10日の延期以来、初めての公式行事を開催しました。
題して、『神波多神社大絵馬奉納記念交流会』。
去年からずっと一緒に頑張ってきた実行委員のメンバーと、神波多神社がある中峰山地区の方々が、このような状況の中、主催者の予想を越えて集まって下さいました。
①まず、参加者の皆様に委員会から絆リレーを来年5月に必ずやり遂げるという決意表明と、改めて理解と協力依頼。
②続いて、この度のコロナ克服祈念絵馬“2020年5月“の作者・中島麦さんの、今回の制作への想いや解説。
③そして最後に弱冠21歳、前述のように絵馬奉納の最初の提案者・北畑良太さんの”歴史の中の神波多神社、そして絵馬“と題した講演。
という内容でした。
手前味噌ですが、様々な年代の参加者が、たっぷり90分間学んで考えて、過去を振り返り未来に夢を託す機会になったという手ごたえがありました。
春から絵馬の作成・奉納、そして交流会の開催という一連の準備の中で、故郷を愛する人がたくさんいらっしゃることを知りました。
また、思っていた以上に「絆リレー」イベントは多くの人に認知されていたことも知りました。
神社の氏子さん達も祇園祭が終わった後も、運営に協力してくださいました。本当にありがたいことです。
参加者の絆も強まり、来年の絆リレー実施に向けてよい再スタートとなりました。
そろそろ、具体的な計画を立てなければならない時期が来ているのです。
なお、今回披露したパンフレットは、神波多神社に150部寄付しましたので、境内に赴かれたら入手可能かと思います。
是非神社を訪ねてみてください。
また、下記をクリックして印刷してご利用していただくことも可能です。
大絵馬奉納記念パンフレット(表)PDF
大絵馬奉納記念パンフレット(内部)PDF
2012年には、実行委員長野村の医院待合室に壁画を描いてもらいました。