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やんばいのぉ山添村
ええ天気やなぁ山添村
『やんばいのぉ』とは、山添弁で『いい天気だね』という意味です。
『やんばいのぉ山添村』は、関西弁では『ええ天気やなぁ山添村』になります!
『やまぞえ絆リレー2020』2021年5月9日に延期となりました。

狭心症薬? 麻酔薬?利尿剤?鎮痛剤? 硝酸エーテル薬品瓶 オールドクリニックの収蔵品⑭

目次

SPIRITUS AETHERIS NITROSI. 甘硝石精(亜硝酸エーテル)瓶

An old medicine jar labelled as Spiritus Aetheris Nitorosi.
Very old item, must have been made in the late 19th century, since this old clinic was established.
It should contain brown liquid medicine inside during the old days.

古い薬品瓶。亜硝酸エーテル・(甘硝石精)と表示されています。
19世紀後半、この古い診療所が出来た頃からここにあったもの。
当時は、褐色の液体・甘硝石精が入っていたことでしょう。

亜硝酸エーテルの薬品瓶

シーボルトも持参したお薬

亜硝酸エチールの薬品瓶。
既に、長崎の出島にシーボルトもこの薬品を持ち込んでいたと言われています。

江戸時代後期には、 すでに大名やその家族は、甘硝石精を「気付け薬・気分の落ち込んだ時の薬・頭痛薬」などに効果あるものと認識して用いられていたようです(参照 医学雑誌「北陸医史」2012年)。
さらに、甘硝石精は、実に色々な薬効があったことが、19世紀前半の欧米の本にも記載されています。たとえば、この記載などは、比較的分かり易いです。
The American Materia Medica, Therapeutics and Pharmacognosy, 1919, です。

甘硝石精についての記載を、すこし引用してみましょう。
This agent is an anesthetic although not used for that purpose. Its common use is that of a stimulating diuretic and if the conditions are favorable, it will produce the discharge of a very large quantity of water. It is the domestic remedy for retention or suppression of urine in children. If it be given with hot tea or with watermelon seed tea, it is of value in mild dropsies,. If the glands of the skin are active, the skin being warm and moist, its diaphoretic influence may be greater than its diuretic effects. The agent is antispasmodic and stimulant in continued fevers with much prostration and nervous irritability. It may be given in fifteen or twenty drop doses four times a day in water with very good results. It soothes the irritation, reduces the temperature and encourages elimination.
It is a remedy for nervous irritation of the stomach with nausea, and flatulence.
Its diuretic influence is of advantage in certain forms of Bright’s disease, if there is congestion with deficiency of urinary secretion. It is of temporary benefit only and its use can not be greatly prolonged.

一応訳してみます) 
治療法—この薬剤は麻酔薬でもあるが、通常、その目的には使用されません。むしろ、その一般的な用途は、効果的な利尿薬として重宝されます。うまく条件が揃えば、非常に大量の排尿をもたらします。それは尿が出ない子供に対する我が国の治療法(英国?米国?)です。温かいお茶やスイカの種のお茶と一緒に飲めば、穏やかに利尿作用を示すでしょう。皮膚の腺が活発で(?)、皮膚温かく湿っている患者さんでは、利尿作用よりも発汗作用による薬効が期待できる可能性があります。また、この薬は鎮痙剤であり、多くの衰弱と神経過敏を伴う継続的な発熱の刺激剤でもあります。水に混ぜて、1日に4回、15回または20回の滴下で投与すれば、非常に良好な結果が得られます。刺激を和らげ、体温を下げ、排泄を促します。

また、吐き気を伴う胃の神経刺激、鼓腸の治療薬です。

本剤の利尿作用は、尿量が少なく浮腫や溢血があるようなブライト病にも有効です。ただし、効用は一時的であり、長期にわたって期待できるものではありません。

(翻訳者注・当時腎臓疾患のことをブライト病とよんでいました)

欧米では、利尿剤として頻繁に処方され、さらに、鎮痛解熱、鎮痙、健胃薬でもあった。
なんといろいろな効果があったのか。

野村医院OLD CLINICでも合成・生成した?甘硝石精

アルコールと少量の硝酸を反応させると合成できることが知られているので、野村医院でもその昔、千太郎は自らこの地において合成・生成して用いた可能性があります。
というのは、当院には、硝酸の薬品瓶も遺されているし、蒸留に用いたと考えられる厚いガラス器具もいくつもあります。

下記の文献を読んでみましょう。これは、2012年(平成24年)の「北陸医史」とう医史学雑誌に掲載された板垣英治氏の論文です。
要約すると、(分からない部分が多いので、大雑把に訳します)
甘硝石精」の作り方が、明治5年に発行された「海軍軍医療の薬局方」(64∼65ページ)に説明があります。
【濃酒(アルコールのこと?)を硫酸溶液に徐々に混ぜて攪和して、次に硝酸を加える。検温器や列篤児土(れとるど?)採気管を備えた容器?に蓄え、そこに銅線を入れて温度を170度から175度にして、決して180度を超えないようにして蒸留すること・・・ 薬効は、衝動、鎮痙、利尿、発汗である・・・】

本当に我が診療所で、これを生成していたのか、市販の甘硝石精を購入していたのか定かではありませんが、ともかく、このガラス瓶の形状やラベルの記載などから、1800年代後半、まさに、千太郎が野村医院を開院した頃からここにあるものであり、彼は本剤を用いて、さまざまな患者さんに投与したことでしょう。
現役時代、この中に甘硝石精が褐色に輝いていたに違いありません。

硝酸薬の薬効解明の歴史

1998年(平成10年)にロバート・ファーチゴットR. Furchgott とフェリド・ムラド F. Murad の両氏が、循環器系における情報伝達物質としての一酸化窒素(NO)の発見の功績でノーベル生理学・医学賞を受賞したました。 まだ20数年前、つい最近のことです。 一酸化窒素は、強力な血管拡張作用があります。

実は、甘硝石精(亜硝酸エーテル)を含め「硝酸薬」と呼ばれる薬は、この一酸化窒素によって効くことが、彼等の研究によって判明したのです。
一番代表的な硝酸薬は、ニトログリセリン(ニトロ)です。これは適量を舌の下で溶かすと、心臓発作を起こしている患者さんが楽になる場面は、たびたびテレビドラマなどでも演じられる、あれです。このように劇的に心臓発作に効果があることは、1800年代後半には既に知られており、広く世界中の人々が服用するようになったのですが、なぜ効くのかは、20世紀後半まで分からなかったのです。

こんな面白い逸話があります。
19世紀も後半、イギリスの硝酸を生成する工場に勤めていた若者は、ひどい頭痛に悩まされていたというのです。
その一方で、狭心症を有する年配の労働者は、自宅では心臓発作をたびたび起こすのにかかわらず、工場に出勤している時間帯だけは発作が生じないのだというのです。
こういうことから、硝酸薬が血管を広げる作用があることに気づいて心臓病の薬としてのニトログリセリン発見につながったのだと。

つまり、投与量(工場の場合は、暴露量とでも言いましょうか)によって、頭に流れる血管が広がり過ぎて頭痛を生じたり、冠動脈を適度に拡張さたりする。あるいは、利尿作用や鎮痛解熱作用を発揮するには、その適切な量や投与方法が大事なのだという事が、これらの史実からも想像できます。

同様に、今日の話題の主役である甘硝石精(亜硝酸エーテル)も、服用すると一酸化窒素を発生します。ただ、ニトログリセリンとは異なり、ここまで読んできたような「さまざまな効果」が本剤にはをあります。
投与量によって、患者さんの体格や体重などによって、得られる効果が様々だったのではないかと想像します。

このような薬品を、自分の裁量、それは経験や知識つまり腕前で、”さじ加減”していろいろと使いこなす~~
医者の腕の見せどころですね。
我々現代の医者は、こういう “さじ加減” を発揮できるチャンスがたびたびあるわけではありません。
むしろ、それぞれの病気に、それぞれ最も適切とされる薬が既に確立され、それを黙々と処方しているだけ、誤解を恐れずに言うと、何となく受け身で単純労働のように処方しているロボットのような存在になり下がっているのではないのか??
(またまた、誤解を招きそうなことを言うと、非難を浴びそうなので、これくらいにしておきます)

エーテルAETHERISの語源

エーテルの語源は、ギリシャ神話に由来しています。
すでにクロルエチル麻酔スプレーの項で説明しましたので、参考にしてください。

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この記事を書いた人

野村 信介のアバター 野村 信介 山添村 野村医院長

60歳を過ぎて、山添村で野村医院を継承した開業医です。長年、三重県で勤務医をして過ごしましたが、年齢とともに、郷愁の念断ちがたくなり戻ってきました。
野村医院での診療の傍ら、村興しにも精を出しております。若い頃にはなかなか気づかなかった山添村の素晴らしさを、このサイトで皆さんに発信していきたいと思っております。どうぞよろしくお願いします。

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