Sphygmomanometer Tycos, 1927 米国Tycos社製血圧計 昭和2年購入
Sphygmomanometer, made by Tycos (USA) an early model.
It was in the mid-1910s that blood pressure became easy to be measured around the world.
Since the late 19th century, several important inventions had made it possible to measure human blood pressure without any puncture. As a result, it had been recognized how important blood pressure is for human health, but it took time until a casual and accurate measurement method was established.
Tycos of the United States is still famous today as a manufacturer of medical devices such as blood pressure monitors. The sphygmomanometer launched by the company in the 1910s become well-known worldwide.
This old sphygmomanometer presented here in my old clinic was also an early model of Tycos, purchased for 48 yen in 1927.
米国Tycos社製の血圧計 1927年(昭和2年)購入
世界中で血圧が簡単に測定できるようになったのは、1910年代半ばのことです。
19世紀後半から、いくつかの発見が契機となり、血圧というものが人間の健康にいかに重要な因子であるかは認識され始めていましたが、簡単に正確に測定することが出来るまでには、かなりの時間を要したのです。
今日においても医療器具メーカーとして有名なTycos社が、1910年代半ばに売り出した血圧計は、世界中で好評を博し、日本にも相当数が輸入されました。
ここに示す当館の血圧計も初期のTycos社のもので、昭和2年に48円で購入されたものです。
オールドクリニックに遺る血圧計
当館には、いくつもの血圧計が遺されていますが、このTycos社製ものが最も古いものです。
【血圧ブーム】とでもいうべき現象が、世界中に広まっていた大正末期から昭和初期、野村医院においても初めて求めた血圧計だと考えられます。初代院長・千太郎が購入したものでしょう。
ちょうど二代院長・清もこの頃医師になったばかりです。当然新しいことは、父親よりも血圧測定や血圧計については、馴染んでいた可能性は高いです。だから、息子に勧められて購入したのかもしれませんね。
代理店の領収書や購入日・金額まで残っています。
昭和2年1月14日というと、大正天皇が崩御されまだ20日しか経過していません。さらにこの3か月後、清の次男(私の父)・三代院長が生まれています。
●48円というと、当時と物価が1,000~2,000倍異なるとすると、今の金銭価値で5万円~10万円したことになります。当時最新式の医療器具ですから、携帯型のものでも、やはりこれくらいの価格だったのでしょう。
当館に遺る血圧計は、皮革製の箱に収納されたまま、長い長い間保管されていました。
箱の中から、下に示すような42ページにもおよぶ血圧測定マニュアルも保存されていました。
その表紙に、この難しい漢字「壓」(似て非なる文字ですが)=「圧」!
「圧」が略字だっただなんて、、、ビックリ!
血圧が測定できるようになって初めて、「高血圧という病気」が広く認識されるようになり、それ以降、人類は「降圧剤」の開発に熱中しました。血圧を下げれば、寿命も延ばせるし、色々な病気から人々を守れるとことも実証してきました。
♣ところで、当時、血圧の意義を重要視しているのは、医師だけではありませんでした。
それは、生命保険業界です。
良い降圧剤がまだない時代ですから、 血圧が高い人は容易に脳卒中を起こしましたから、持病として高血圧の有無を調べる方針が、打ち出されたはずです。当時の日本は、現代と同様に生命保険に加入する人は多かったのです。
国民皆保険制度がまだ存在しなかった当時、開業医にとって、生命保険加入時の診断業務は、普段の診療と同じくらい大事な仕事だったはずです。今日とは比べ物にならないくらい比重が高かったと推測しています。だから、血圧計も必須のアイテムだったことでしょう。
血圧計の歴史 & Sphygmomanometerの語源
脈をみることから、始まりました。
西洋医学でも、中国医学でも、南米でも中東でもインドでも、「脈」をみることを何千年も人類は続けてきました。
血圧測定はその延長線上にあります。
血圧を、直接的に測定することは、1700年代から始まり(馬などの大型家畜を用いて)、色々な知見が蓄積しました。
現代のように、間接的に血圧を測定する方法は、1800年代から始まりました。
少し皮肉な考え方かもしれませんが、画期的に血圧測定技術が進歩するのに寄与したのは、工業技術的な進歩だったのではないでしょうか?
●ゴム製品の質が向上し、その結果、現代でも使われているような空気を送るゴム球が頑丈になった。
●水銀をちゃんとガラス管に入れて漏れない製品を生産できるようになった。
●マンシェット(腕帯)ゴム袋も、薄く丈夫な製品を生産できるようになった。
こういう進歩に加えて、その次に研究者や科学者のいくつかの発見があったのです。
ここでは、次の二人の名前を挙げておきます。
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最後に、語源のことを簡単に。
ギリシャ語でsphygmosは、「pulse・脈」を表す言葉です。
ギリシャ語が、ほぼそのまま英語にもなっている言葉は、比較的希。
sphygmomanometerは、だから、かなり発音しにくい言葉です。
人類が、病気や健康の因子として「血圧」を重要視するようになって、まだ100年程度の歴史しかないのですね。
それを、私も、このブログを書くようになって、初めて知りました。
しかし、その一方で、血圧をもっと大事にしよう、患者さんの血圧をもっと丁寧に診て行こうと考えるきっかけにもなりました。2年前に書いたブログです。季節によって降圧剤を調整するという記事です。今年の厳しい夏に、皆様も自分のお薬のことをかかりつけ医に相談してみてください。
未熟なブログを、ここまで読んでくださり、ありがとうございました。