コルク栓圧縮機 Cork Press
これは、21世紀に生きる若者のほとんどは、なんの用途なのか見当がつかないようです。
オールドクリニックを訪れた人に訊いても、だれも分からないのですから。
「コルク栓圧縮機」と申し上げても、まだイメージできない人が多いのではないでしょうか?
Cork Press, made of iron.
Circa 1890s
Length 21cm, Very heavy
Origin country unknown but probably Japan, as no any maker mark is found.
Used for cork size adjustment of potion bottles, from 1890s to 1960s
私も、古い医療器具博物館にこれを展示するべきか少し迷いましたが、当時の医療を説明するには、むしろ大事な展示品と考えるようになりました。
コルク栓を圧縮して、瓶の口のサイズに合わせるための道具です。
当時は、咳止め、痛み止め、解熱剤などのお薬は、「水薬」が多かった。
医師は、製薬会社が製造した錠剤やカプセルなどの画一的な「お薬」を渡すのではなく、
粉末にしろ、水薬にしろ、自分で配合を工夫したものを、処方することが多かったようです。
それこそが、「腕の見せどころ!」だったかもしれません。
水薬は、ガラス瓶に入れて、コルク栓で蓋をして患者さんに渡しました。
現在ほど、ガラス瓶も瓶の口の大きさも、画一的ではなく、色々なサイズが混じっていたと想像されます。
だから、このような圧縮機で、その場でコルク栓も調整していたのでしょう。
コルクは、現在もワイン瓶に昔ながら使われ続けています。
味にうるさいワイン党も、昔ながらのコルク栓を認めています。
化学物質の溶液である水薬にも、コルクが使われたのは、瓶に詰まったお薬と余計な化学反応を起こしにくいという性質が重宝されたからでしょう。
私の思い出
小学生の頃だと思います。
当時「薬局」と呼んでいた部屋に、箱詰めされた未使用のコルク栓や小さなガラス瓶がたくさんありました。
昭和40年前後のことです。
野村医院でも、それだけ汎用されていた証です。
私は、この器具でコルク栓を圧縮して遊んだ記憶があります。
自分の指を入れて、そっと抑えてみたこともありました。
もちろん「痛かった」。
祖父や父母は、そんな私を見ても怒らずに、黙っていました。
当時は、こんなに錆びていませんでした。
使い込まれて黒光りしていたように思います。
あれから、50年も放置されている間に、こんなに錆びてしまいました。
野村医院のために働いてくれた器具に、申し訳なく思っています。