Dr.Speier & von Karger(独)の局所麻酔スプレー(クロルエチル)
An old equipment for local or inhalation anesthesia with chlorethyl.
Volume 50ml, Height 14.5cm including the head metal handle.
Chlorethyl anesthesia used to be often prescribed by dentists, for tooth extraction.
In our OLD CLINIC museum, there are many evidence of frequent tooth extraction at that time.
The term, chlorethy, is today called ethyl chloride or chloroethane.
Made in Germany (Dr Speier & von Karger’s chemical works, Berlin, funded 1901), circa 1900-1940. u
The pink label in Japanese shows Sankyo Co.,Ltd., the the predecessor of Daiichi-Sankyo Pharmaceutical Co., Ltd., was involved in sales. As the Sankkyo Co.,Ltd., was established in 1913.
Once the WWI begun from 1914, we could not import most chemicals and medicines from Germany. Therefore, this spray might have been imported in 1913 to 1914.
ドイツ製のクロルエチル局所麻酔用スプレー。
金具まで含めて長さ約14.5cm。
ドイツ Dr Speier & von Karger’s chemicals and pharmaceuticalsの製品。
当時、歯科医が抜歯の麻酔にクロルエチルを頻繁に利用していたようです。
実は、我がオールドクリニックには、当院において抜歯も頻繁に行っていた形跡が遺されています。だから、当院でもクロルエチル麻酔器がその目的で使われた可能性が高いと考えています(後述)。
最近の歯医者さんではあまり使われることはありませんが、欧州の薬局などでは、今もクロルエチルのスプレーが売られているようです。
クロルエチルは、塩化エチル、エチル・クロライド、クロロエタンとも呼ばれます。
Dr Speier & von Karger’s chemicals and pharmaceuticals は、ベルリンに1901年設立。ピンクの日本語ラベル(下図)から、現在の第一三共製薬の前身である三共株式会社が販売に関わっていたことが分かります。この会社は、有名なタカジアスターゼを発売することを目的に1899年に設立されたものの、株式会社になるのは1913年です。
1914年に第一次世界大戦が始まりドイツと敵国になった我が国は、ドイツからの薬品輸入が完全に止まってしまいましたから、もしかすると、これは、1913年から14年の短い間に輸入されたものかもしれません。
歯科医でもあった野村医院?
今日の話は、私の幼い記憶が元にあります。まずは、この絵を見てください。
実物は、どこを探しても出てこないのですが、私が物心ついた頃(つまり昭和40年初頭)、抜かれた歯がぎっしり詰まったガラス瓶が、オールドクリニックや母屋の床下にゴロンゴロン落ちていたのです。子供心にも怖いものでしたから、手に取ることもなかったけれど、その光景は今も脳裏にしっかり焼き付いています。
あの頃でさえ、相当に古いものだと分かりました。父にそのことを話すと、「昔は抜歯もしていたんだよ、歯医者さんもなかったからね」そんな答えが返ってきたように覚えています。
このまま私は、記憶を50年ほど持ち続けていました。
オールドクリニックの収蔵品を整理していくと、野村医院でかつて抜歯していた証拠がみつかり、私の遠い記憶・あのガラス瓶が、次第に蘇って来て、確証に至るのでした。
まずは、下の示したこれらの器具です。
木箱に納められた数々の医療器具は、歯科用のものであることは疑いようがありません。
木箱には、会社名も何もありませんが、丁寧に収納されたこれらの医療器具の多くは、明治や大正期のものと判断して間違いないでしょう。道具は相当に使い込まれています。
初代千太郎院長は、おそらく歯科、あるいは、歯科的な医療をもしていたことはこの道具からも明らかです。
そして、今回のクロルエチル麻酔器です。
これが、表面麻酔薬としてかつて歯科医が汎用したことを知り、当院でもそのために使用したであろうと結論付けたという次第です。
子供の頃、あの歯が詰まった瓶を見ていなければ、物事をこのように組み立てることは出来なかったかもしれません。
たとえ、立派な箱入り歯科用道具や麻酔薬を手にしても、まだ抜歯をしたのかどうか確証を得ることは出来ずに、可能性がある、くらいの表現に留めていたことでしょう。
ethane, ethyl, etherの語源や歴史
クロエチルや麻酔に関係する医学の歴史や語源を、かいつまんで列記しておきます。
1730年、エーテルetherの発見 (A. S. Frobenius ドイツ )
Aither(ギリシャ神話の光り輝く澄み切った天空の上部を意味する言葉。我々の吸っている空気はAtherの下にあるからAirという)にみなぎる精気ということで、Frobeniusは、spiritus aethereusと名付けましたが、その後、ether(エーテル)と略称されるようになったといいます。
エーテルを実際に彼が見つけたかどうかは、定かでなく、諸説があるようです。
1759年、クロルエチルの発見 ( G.F. Rouelle フランス )
Rouelleは、有名な科学者であり、薬剤師でもあった人です。
1804年、華岡青洲が 「通仙散」による全身麻酔下に乳癌の手術に成功
1848年、クロルエチルで全身麻酔実施 ( O. Heyfelder ドイツ)
1866年、Richadson噴霧器(クロルエチルやエーテルの噴霧器)の発明(B.W. Richardson 英国)
よって、ドイツ製の私達の噴霧器は、このRichardson噴霧器の改良版ともいえるかもしれません。
1894年、 クロルエチル噴霧麻酔による抜歯術 (Carlson スウェーデン)
このように、クロルエチルの発見と表面麻酔の薬効が確実に積み上げられて、開国後の我が国でも伝えられ、スウェーデンのCarlsonの業績が、10年程度で既に応用されていったのです。素晴らしいことです。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
野村医院では、百年以上も前に、抜歯を中心とした歯科医顔負け?の医療も当時行っていたことが分かりました。
一人の医者が、いったいどれくらい範囲を広げて診療していたのだろうか?
想像もつかない、驚きの力量。
私など、とても足元にも及びません。
何が何でも、自分の施設で完遂させるのだと、そういう気概がありありと感じられるのです。